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発見

51回直した3D流体シミュは、理科教材として売れる

ブラウザで動く3D流体・河床浸食シミュを、生成AIと51回直して作った人がいる。強いのは技術より、教材に届くまで検品し続けた粘りだ。

51回直した3D流体シミュは、理科教材として売れる
Zenn
https://zenn.dev/hajimeteradio3/articles/610918e581c7be

これは一発生成の自慢ではなく、51回の検品ログだ

二度見したのは、ブラウザ上で3D流体と河床浸食を動かしている点だけではない。そこも十分すごい。React、Three.js、WebGL、GLSLを単一HTMLにまとめ、GPU上の3Dスカラー場、浸食と堆積、不確実性の可視化、スマホUIまで入れている。個人が休日に触る題材としては重い。

ただ、この記事の芯はそこではない。v01からv51まで、実機で触り、違和感を見つけ、原因を調べさせ、案を比べ、最小差分で直す。この往復こそ本体だ。

生成AIで作ったものを見ると、つい「最初のプロンプトは何だったのか」と考える。けれど、この事例で強いのは最初の呪文ではなく、51回ぶんの検品だ。Playを押すと回転できない。再生しても変化が見えない。ボタンを押そうとすると位置が動く。浸食しているはずなのに目で分からない。こういう地味な不満を、人間側が拾い続けている。

ここはかなり真似したい。AIに任せる範囲を「コードを書く」だけにしていない。数千行の横断解析、状態変数の追跡、イベント経路の確認、古い実装の残りチェックまで任せる。一方で、体験の定義、UIの違和感、iPhone実機確認、数値や見た目の妥当性は人間が握る。この分担は、個人開発の現実に近い。

学校が払うのは、高精度な河川モデルではなく触れる仮説だ

このアプリは、実際の河川や環境設備を評価するものではない。作者も学習用デモだと明記している。専門家向けの解析ツールとして見ると、突っ込みどころは多いはずだ。完全混合の基礎モデルも、相対値や概算値も、現場の意思決定に使うものではない。

ただ、個人がAIで作るものとしては、むしろそこがいい。これは「正確な予測装置」ではなく、「現象を触れる形にした教材」に近い。水の流れ、河床の変化、見えない場、不確実性。教科書では別々の図になりがちな要素を、ひとつの画面でつないで見せる。学校、理科教室、地域の防災ワークショップなら、払う理由が見える。

自分なら、さらに割り切って売り物にする。河川工学の本格ツールではなく、5分で触れるシミュ教材にする。先生が授業の冒頭で「上流の流れを強くすると、下流の地形はどう変わる?」と聞き、生徒がスマホで予想して動かす。正解を当てる教材ではなく、仮説を出す教材だ。

AIゲームやPrompt-to-gameの流れも同じで、遊んで終わると弱い。Design、Code、Art、Reviewの4エージェント構成で、題材ごとに小さな教材を量産するほうが現実味がある。水害、防災、感染拡大、店内導線、在庫の流れ。すべてを厳密にする必要はない。触った瞬間に「なるほど、そう動くのか」と言えるところまで作れば、地域店や教室が使う白ラベル教材になる。

手の内は、AIに作らせたよりAIに疑わせたに近い

公開情報からの推理だが、この制作のうまさは、AIをいきなり実装係にしていない点にある。まず修正せずに原因を調査する。複数の原因候補を比べる。実装案を出す。案に問題がないか再検証する。方針が固まってからパッチを作る。修正後に旧実装が残っていないか見る。

これは個人開発者にかなり効く。AIに「直して」と投げると、直ったように見える差分が返ってくる。でも、画面上の不具合は消えても、裏側に別の状態変数が残ったり、古いイベントハンドラが生きていたりする。Three.jsやWebGLまわりは、見た目が動いているだけで安心すると危ない。

この作者は、AIを実装担当だけでなく、調査担当、設計案の比較担当、レビュー担当として回しているのだと思う。人間は「何が気持ち悪いか」を言う。AIは「どこで起きていそうか」を掘る。人間が「その直し方は採用しない」と制約を置く。AIが最小差分を出す。この往復があるから、重い題材でも壊れながら前に進める。

これはノーコード寄りの人にもそのまま使える。大事なのはGLSLを書けるかではなく、違和感を分解して渡せるかだ。「変です」ではなく、「再生中に回転できない」「変化しているはずなのに人間の目では分からない」「モーダル内をスクロールできない」と言う。AIに渡すべき素材は、きれいな要件定義より、触った人間の具体的な不満なのかもしれない。

惜しいのは、教材としての入口がまだ技術者向けなこと

引っかかった点もある。今の見え方だと、技術の密度が高いぶん、使う人が少し置いていかれそうだ。GPU場、ベイズ推定、双方向カップリング、GLSL。作り手にはワクワクする単語だが、学校や教室に持っていくなら、最初に見るべきものではない。

自分なら、技術タブは奥にしまい、最初の画面は「雨を強くする」「川底を柔らかくする」「時間を進める」くらいにする。数式ではなく、問いから入る。「どこが削れると思う?」と予想させてから動かす。結果が合っていたかどうかより、自分の予想と違った場所を見つけさせる。その後に、先生用モードでモデルの仮定や不確実性を見せる。

スマホUIまで入れているのは大きい。教材化するなら、PC前提にしないほうがいい。教室、地域イベント、店頭研修では、全員が高性能PCを持っているわけではない。端末性能に応じた画質調整まで入っているなら、配布のハードルは下げられる。

この作品を見て思ったのは、個人がAIで作れるものは「便利ツール」だけではないということだ。専門家の仕事を置き換えるのではなく、専門知を触れる形に薄く切って、教育や研修の現場に持ち込む。そこに値段がつく。51回直した流体シミュは、そのかなり良いサンプルに見える。