https://zenn.dev/doushimasho/articles/35b812d2ce9479
タイピングを捨てたら、制作の本体だけが残った
コードを書けない人がAIでゲームを作った、という話はもう珍しくない。ただ、この「シュミネーター」は少し違って見える。333種の趣味から、平均27問でその人に合う趣味を当てる診断ゲーム。作者はキャリアコンサルタントでVTuber。エンジニア経験はゼロ。制作期間は2026年7月10日から17日までの約1週間。使ったのはClaudeの月額プランで、キーボード入力もほぼしていない。
二度見したのは「音声入力で作った」こと自体ではない。音声で喋る。触る。ダメ出しする。また喋る。このサイクルが、ゲーム制作から余計な憧れを剥がしている。前に出てくるのはコードを書く能力ではなく、「今の画面は押しにくい」「質問のテンポが悪い」「これだと新しい趣味に出会えない」と判断する能力だ。
個人がAIで何かを作る時、話はプロンプトの上手さやツール名に寄りがちだ。でもこの事例のうまさは、作者がAIに作業者ではなく試作品係を任せ、自分はプレイヤー兼編集者に回った点にある。かなり真似しやすい。作れない人が作れるようになった話というより、作る場所が「手」から「目」に移った話だ。
一番うまい設計は、趣味を当てたあとに裏切るところ
診断ゲームとして見ると、最大の問題はかなり地味だ。正直に答えると、すでにやっている趣味が当たってしまう。ゲーム好きにはゲーム、サウナ好きにはサウナが出る。正しいけれど、嬉しくない。診断としては当たっているのに、体験としては外している。
そこで作者とAIは、第一幕で今の趣味を当て、それを座標にして第二幕で「次の趣味」を探す構造にした。さらに、変わった趣味を求めているかを測る質問を入れ、答え方によって苔テラリウムやハンドパンのような少し尖った候補が浮かぶようにしたらしい。
この発想は使える。学校や教室で使う5分シミュ教材にするなら、正解を出すだけでは弱い。今のあなたを当てる。そのうえで、少し先の行動を見せる。そこにお金を払う理由が生まれる。たとえば進路授業なら、「向いている職業」を当てるより、「今の興味から次に試す1時間体験」を出す方が強い。地域店なら、「あなたに合う商品」より、「今日寄り道する理由」を出す方が使われる。
AIに任せたのは魔法ではなく、検証の雑用だった
手の内として面白かったのは、推測エンジンを変えるたびに、AIが回答ノイズありの条件で数千から数万回のシミュレーションを回し、的中率や平均質問数を数字で報告していた点だ。かなり現場っぽい。
非エンジニアがAIに何かを作らせる時、怖いのは「なんか動くけど、良いのか悪いのか分からない」状態だ。画面が出た。ボタンが押せた。だから完成、になりやすい。でもこの制作では、当たりやすさとプレイ時間のバランスを数字にしている。作者がコードを読めなくても、「27問は長いか」「4回以内に当たる割合は足りるか」という会話ならできる。
自分なら、最初から検証ログを売り物に含める。白ラベル研修ゲームや教室向け診断教材にするなら、完成品だけを渡すより、「質問数を短くすると精度がこう落ちます」という調整表がある方が信頼される。AI制作物の価値は、見た目の完成度だけでなく、なぜその挙動にしたかを後から説明できることにも乗る。
全損事故まで含めて、商品に近い形をしている
微妙というか、怖いところもある。結果画面にYouTubeサムネイルを出すため、GitHub Actionsが毎日検索結果から動画IDを取得してJSファイルに焼き込む方式にしたところ、ある朝データが全部消えたという。原因は既存データを読み込む処理の欠陥で、取得失敗時に空データで上書きされる流れになっていたらしい。
ただ、この事故への対処が妙に良い。正規表現をやめ、データ部分を素直に取り出す方式に変えた。さらに「収録数が減る書き込みは拒否する」安全装置を入れている。AI制作でありがちな、動けば終わりの逆を行っている。壊れたあとに、壊れ方を潰している。
自分なら、この部分をもっと前面に出して教材パッケージ化する。ゲーム本体、診断データ、シェア画像、外部リンクの自動更新、安全装置。これだけ揃うと、ただの趣味診断ではなく「小さな診断メディアの雛形」になる。地域の習い事教室なら、趣味をダンス、料理、英会話、楽器に差し替えられる。企業研修なら、趣味を行動タイプや学習テーマに変えられる。売り物の名前は、5分診断ゲームキットくらいで十分伝わる。
個人AIゲームは、遊びより先に小さな営業ツールになる
この事例を見て思ったのは、AIゲームの次の使い道は大作ゲームではなく、短いシミュレーション教材や診断ゲームではないか、ということだ。Design、Code、Art、Reviewの4役をAIに分け、個人が編集長になる。学校、教室、地域店、研修会社がそのまま使える5分体験に落とす。そこまで行くと、「AIで遊びを作った」ではなく「AIで営業と教育の入口を作った」になる。
シュミネーターは、見た目だけなら素朴なWeb診断ゲームだ。素のHTMLとJavaScript、GitHub Pagesで動く。派手さはない。でも、非エンジニアが声で作り、質問設計を直し、シミュレーションで詰め、データ全損に安全装置を入れた。この流れの方が、完成画面よりずっと濃い。
個人がAIで今まで無理だったことをやる、という話は、超人的になることではない。自分の判断を、動くものに変換する速度が上がることだ。このゲームはそこをかなり正直に見せている。だから真似するなら、まずゲームの題材ではなく、この分担を盗みたい。喋る人間、作るAI、触って怒る人間、数字で直すAI。この往復だけで、小さな商品はもう作れるところまで来ている。