https://zenn.dev/hiro_vibe/articles/f0f450149d244d
いちばん旨いのは、小人ではなく線を描かせるところ
今回見たのは、Zennに出ていた「小人が住む黒板」をGeminiでオマージュした一枚HTMLアプリだ。元ネタはチームラボの体験展示。黒板に線を描くと、小人たちが登ったり転がったり、水を避けたりするタイプの作品だ。
最初は「有名作品のミニ再現か」と思った。AIでそれっぽいものを作る記事は、もう珍しくない。ただ、この題材は少し違う。見どころは小人のかわいさではない。ユーザーが描いた線を、物理世界の地形に変えるところだ。
これは強い。作り手が用意したステージで遊ばせるゲームではなく、遊ぶ側がその場でルールを変えられる。線を一本引くだけで、坂になる。壁になる。落とし穴になる。子どもには「自分の手で世界をいじった」感覚が残る。
ここに、個人開発で真似すべき核がある。豪華なグラフィックがなくても、ユーザーの落書きを物理ルールに変換できれば、体験の主役はユーザーになる。家庭用の遊びにも、学校や教室の5分シミュ教材にも向いている。坂道、摩擦、障害物、流れ、重力といった概念を、説明ではなく手触りで理解させられる。
AIに任せたのは魔法ではなく、面倒な接着剤だった
公開記事によると、構成はReact 18.2.0、Tailwind CSS、物理演算ライブラリ。ReactとTailwindを一枚HTMLに詰め、サーバーレスでどこでも動くポータブルSPAとして作る企画の第18弾らしい。
うまいのは、物理演算そのものを自作していない点だ。記事では、Geminiに「Reactと1枚のHTMLで、物理エンジンを使ったミニゲームを作りたい。小人が画面内を歩き回り、描いた線に反応するようにして」と投げ、物理演算ライブラリを読み込む形で実装したと書かれている。
この割り切りは大事だ。個人がAIで何かを作るとき、「全部AIに作らせた」か「自分でちゃんと実装した」かの二択で考えがちになる。でも、今回の本体はそこではない。AIに任せたのは、React、描画、物理ライブラリ、衝突判定をつなぐ面倒な接着剤の部分だ。
自分で作るなら、最小構成はDesign、Code、Art、Reviewの4役で回す。Design役が「線を描くと小人がどう反応するか」を決める。Code役がMatter.jsのような物理エンジンとキャンバスをつなぐ。Art役が小人や黒板の見た目を最低限整える。Review役が、子どもが触って壊れる操作を見つける。大げさなチームではなく、AIに4つの視点を持たせればいい。
惜しいのは、作品名に寄せすぎて売り物の顔が隠れていること
微妙だと思った点もある。チームラボ風、オマージュ、我が家がチームラボに、という打ち出しはクリックされやすい。ただ、その言い方だと「有名作品を家で再現しました」で止まりやすい。
中身を見ると、これは単なる再現ネタではない。売り物にするなら「線で重力を学ぶ5分教材」や「教室テレビで使う物理あそび黒板」と呼ぶほうが強い。払う人も見える。保護者、学習塾、放課後教室、地域の科学イベント、小さなキッズスペース。大企業の展示のミニ版ではなく、小さな現場で使える教材として見せたほうが、個人開発の出口に近い。
公開情報だけでは完成度までは断定できない。長時間遊んだわけではないし、衝突判定、線の消し方、タッチ操作の気持ちよさは触らないと分からない。ただ、方向性はかなり使える。白ラベル研修ゲームにも転用できる。安全教育で「荷物が転がる導線を描く」、店舗研修で「人の流れを線で変える」、理科教室で「物体をゴールへ運ぶ坂を作る」。小人を別キャラに差し替えれば、教材の皮は変えられる。
有名展示を小さくするより、現場の5分に合わせる
この手のAI制作で見たいのは、「すごいものを再現しました」ではなく、「現場の短い時間に入る形へ削りました」だ。
チームラボの展示は、空間も演出も込みで成立している。個人が正面から勝つ必要はないし、勝ちにくい。けれど、家庭のテレビ、教室の電子黒板、イベント会場のプロジェクターで5分だけ動かすなら、話は変わる。必要なのは圧倒的な没入感ではなく、触った瞬間に因果が返ってくることだ。
この黒板アプリは、その条件を満たしやすい。線を描く。小人が反応する。失敗したら線を変える。これだけで、小さな仮説検証になる。AIで作るべきゲームは、長編RPGだけではない。こういう「触ると分かる小さな仕組み」を量産するほうが、個人には向いている。
自分なら次に、教材としての最小パッケージを作る。先生用のお題は3つでいい。「小人を落とさず右へ送る」「水を避ける道を作る」「坂だけでゴールさせる」。点数もランキングも要らない。5分で説明できて、5分で遊べて、最後に一言だけ学びが残る。それなら家庭の遊びから一段進み、ちゃんと払う人がいるプロダクトになる。